大判例

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仙台高等裁判所 昭和33年(ラ)63号 決定

抗告人 守屋権左エ門

相手方 山本仲子

主文

本件再抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件再抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

抗告人の主張は、相手方は抗告人所有の仙台市坊主町五番地の一三、家屋番号第六番の八、木造ルーヒング葺平家建居宅一棟、建坪一二坪二合五勺につき、(1) 債権額金二万円、弁済期昭和三一年六月二八日の債権を担保するために設定した第一順位の抵当権及び(2) 債権額金二万五千円、弁済期昭和三一年五月二七日の債権を担保するために設定した第二順位の抵当権を有するとして、右第一順位の抵当権実行のため競売を申立て(仙台地方裁判所昭和三一年(ケ)第一二六号不動産競売事件)不動産競売開始決定を得、さらに昭和三二年六月一九日競落人となつて競落許可決定を得た上、同年一〇月二五日不動産引渡命令を得てこれを執行しようとしているが、抗告人は右の債務を負担したことも抵当権を設定したこともないので、右抵当債権不存在確認訴訟を提起したが、不動産引渡命令を執行されると、抗告人にとり回復し得ない著しい損害を被るので、その執行を一時停止する旨の仮処分申請をしたところ、原決定及び第一審決定はともに右申請を失当であるとしたが、これを失当とした理由は、第一審決定の理由と異るのであるから、このような場合、原裁判所は第一審決定を取消し、事件を第一審裁判所に差戻すのが妥当であるとし、原審がこのような措置を採らなかつたことを論難するものである。

第一審決定が、引渡命令は執行し得べき一定の給付を命じた裁判であるから、これにもとづく強制執行の一時の停止を求めるには、民事訴訟法強制執行編に規定するところに従うべきものであつて、債権不存在確認の訴を本案とし、一般の仮処分の方法によつてこれを停止することを許されないとしたのに対し、原決定は、抗告人が債務を負担したことなく、また抵当権を設定したこともないとの抗告人の主張事実は、これを認めるに足りる疎明がなく、したがつて競落許可決定が無効であることについてはなんらの疎明がないことになるから、競落許可決定が無効であり、これにもとづく引渡命令が無効であることを前提とする抗告人の本件仮処分申請は失当であるとしたことは、第一審決定及び原決定によつて明らかである。

抵当権または抵当債権不存在確認の訴を本案とし、一般の仮処分の方法によつて抵当権を実行してはならないとの仮処分申請をすることはもちろん許されるのであるが、競売手続に伴つて、いつたん発せられた引渡命令にもとづく強制執行を仮処分で停止し得るかどうかは別個の問題である。当裁判所は、引渡命令(競売法三二条によつて準用される場合を含む。)は民訴五五九条一号に該当する債務名義であるところ、債務名義にもとづく強制執行については、債務者は民訴強制執行編にその停止を許す旨の規定がある場合に限つてこれを求めることができるだけであり、一般の仮処分の方法でその強制執行を停止することは許されないものであると解するから、抗告人の本件仮処分申請は理由がないものといわなければならない。

また原審が第一審決定と異なる理由で、抗告人の本件仮処分申請を理由のないものと認めても、必ずしも第一審決定を取消し、事件を第一審に差戻さなければならないものではないから、この間の原審の措置はなんら法令に違反するものではなく、論旨は理由がない。

次に抗告人は、原審が抵当権及び抵当債権が存在しないとの抗告人の主張事実については疎明がないから、本件仮処分申請を失当とし、民訴七四一条二項三項の規定を適用しなかつたことを非難するのであるが、疎明のないとき保証を立てさせて仮処分を命ずるかどうかは、裁判所の裁量に属するのであるから、原審が疎明に代わる保証を立てさせなかつたからとて、なんら法令に違背するものではなく、本論旨もまた理由がない。

よつて、本件抗告を棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 斎藤規矩三 羽染徳次 佐藤幸太郎)

別紙

抗告の趣旨

原決定を取消し、抗告人申請の仮処分を許す旨の裁判を求める。

抗告の理由

(一) 仙台簡易裁判所は、抗告人の仮処分申立につき、一般の仮処分を以て一時停止することは許されず、民事訴訟法強制執行編の規定するところに従つてその執行の一時停止を求める申立をなすべきであるとして却下したが、抗告人の仮処分の申立は任意競売事件であり、決定により既に確定したる事件に付異議ある場合は、一般確認訴訟を起し、其れに対する続行中の強制執行は仮処分により停止を求めるのは妥当であると主張し、仙台地方裁判所に対し抗告をなしたが、同裁判所は仙台簡易裁判所の決定したる理由と全く違つて、「競売法による競売の場合には債務名義によつて確定したる権利の実行である強制執行の場合とは異なり、不動産の競売の手続中その権利の存否について争を生じた場合においては、仮処分の方法によりその手続の停止をなし得るものと解し得るところであるが」と抗告人の主張を認めているが、却下の理由は疎明がないと言う理由で原審決定は却下したのが相当であると決定しているのであります。

よつて棄却するとの事であるが、抗告裁判所である仙台地方裁判所は理由の主たる疎明がないと言うなら原審の決定である仙台簡易裁判所の決定である仙台簡易裁判所の決定の強制執行編の申立をなすべきであるとの理由と全く違つて居るならば、抗告は棄却でなく原審差戻の決定が妥当であると信じます。

こうして抗告人の申請する裁判について理由は認められない内容をもつて却下棄却と決定しているが、抗告人は仙台簡易裁判所にて、昭和三三年(ハ)第二三〇号債権不存在確認訴訟を起し審理中であり、抗告人は原告、相手方は被告として続行中でありますが相手方は最初の裁判である第一回第二回共欠席致し争わんとしないまゝ判決は確定すると推定出来るので勝訴の見込あるので一時停止の仮処分の申請をなした次第でありますが、例え競落許可したとしても不存在を理由として確認訴訟は判例の是認するところであるが故にこの種仮処分の必要を否定することは誤りである。蓋し第三者が競落人となつた場合には、競落債務者は再びの競落人に対しても訴を提起する必要に迫られ、従つて事情次第ではこれがため著しい損害を被ることもあり得るからである。大審院大正八・二・一〇判決、録二五輯二九三頁、債権不存在確認訴訟に対する仮処分の適用判例最高裁昭和二六・四・三判決集五巻二〇九頁、大審院昭和六・五・三〇判決法律新聞三、二九三号一二頁。

以上判例の如くこれを許した。仙台地方裁判所は棄却とは意味が通じない。原審差戻しが妥当であつたらうと思います。

疎明が不足であると言うならば、それ相当の法律の適用がそれぞれあるはずである。疎明の方法については民訴第七六一条第一項により又は保証の方法でも出来る。同法七五六条同法七四一条二・三項である。

仮処分の執行停止許容の特例、最高裁昭和二三・三・三決定集二巻六五頁等である。

よつて仙台地方裁判所の決定は、法律的理由は認められない。本件目的たる斯様な裁判を受けた事については、誤つて御裁判をなしたものと解する。仙台簡易裁判所、仙台地方裁判所いずれも法律的裁判とは認められないのが相当である。後は御庁に於いて公平なるはつきりした裁判を特にお願い致します。よつて原決定を取消し、別紙記載の仮処分命令申請の内容の御裁判を求めるため、本件再抗告に及ぶ次第である。

(二) 相手方は、抗告人に対し元金二万円昭和三十一年三月十二日返済期同年六月二十八日の債権及び抵当権を有するとて、抗告人の所有する仙台市坊主町五の十三家屋番号第六番の八、木造ルーヒング葺平家建居宅壱棟建坪十二坪二合五勺の不動産を競売に附し仙台地方裁判所昭和三十一年(ケ)第一二六号不動産競売事件として手続をし、昭和三十二年六月十九日相手方に競落許可決定し、右競落による立退の強制執行続行中である。

ところが、抗告人より右の様な債権について借用した事ない。もちろん抵当権を設定したおぼえがないので不存在であるから仙台簡易裁判所昭和三十三年(ハ)第二三〇号債権不存在確認訴訟を起し、右債権及び抵当権の不存在を争い現在審理続行中であるが、本件訴訟の終了を待つては回復できないから本件仮処分による強制執行停止を申請したるところ、原審裁判所である仙台簡易裁判所はこれを不適法として却下した。

然しながら右原審裁判所の却下決定の理由は民事訴訟法第五四四条の異議第五四五条の異議の判例をそれぞれ明示し、民事訴訟法強制執行編を適用すべきであつて、一般確認訴訟をもつて一般の仮処分の方法ではこれを許されないと言うのであるが、これは法令違反と言うよりも誤りであるので仙台地方裁判所に対し抗告手続をなしたが、これが昭和三三年(ソ)第一号仮処分却下決定に対する抗告事件である。

そもそも前記競売事件は、競売法による任意競売であつて、債務名義による確定したる強制執行編は単なる準用規定にすぎなく確定したる債務名義を要しない結果として、当然適用するものとしないものがある。

抵当権の無効又は不存在の確認若しくは抵当権設定行為の取消の本案訴訟を提起すると共に、仮の地位を定める仮処分として競売停止仮処分を許す余地と必要があると言わなければならない。民事訴訟法第七六〇条の本旨である。尤も抵当権実行は、債務名義を有しない結果として、競売債務者は競売手続完了後においても抵当権の不存在を理由として競落による所有権移転を争い得る事は判例の是認するところである故に、この種仮処分の必要を否定することは誤りである。又第三者が競落人となつたとしても競落債務者はこの競落人に対してもこの種訴を提起する必要に迫られ、従つて事情次第では著しい損害を被むる事もあり得るのである。適用判例次の如し、

大審院大正八・二・一〇判決録二五輯二九三頁

吉川氏保全訴訟の基本問題三四四頁

東京地方大正一四・六・一五判決、法律新聞二、四五八号一頁

東京控訴昭和八・七・八判決、法律新聞二二巻民訴四一一頁のものである。

民訴第七六〇条には殊に継続する権利関係につきと規定されているので従つて一回の履行によつて消滅する権利関係でも仮の地位を定める必要が認められるならば、この種仮処分の保護を受ける適格があるので本件仮処分は適法として許容すべきである。それであるのに原審裁判所は仮処分を適法として認めたが疎明がないとして棄却した事は法令の適用違反であるから第三八八条第二項により原審差戻が正当の裁判であるから違式の裁判であると言うにある。

次に疎明がないからと言う理由について申上げますが疎明がないと言う事については、民訴第七五六条、第七四一条第二項第三項、第七六一条第一項等によりこれら規定を適用して見る必要があるのであつたろうと思います。

よつて民事訴訟法第三八八条第二項の法令違反であるから再抗告に及んだ次第である。

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